ハウスクリーニングの市場

この業界全体のことを一言で表そうとすると「清掃サービス業」と言った方がいいかもしれません。
ハウスクリーニングと一言で言っても、清掃サービス業全体からすると微妙にイメージする市場が異なります。

一般の方はいわゆるハウスクリーニングといえば、一般家庭に訪問してお風呂やキッチンといた水回りの清掃をするサービスというイメージを持っているかもしれません。

言葉を変えて「清掃会社」というとどんなイメージを持たれるでしょうか?
清掃会社というと、商業ビルやテナントの入口や廊下といった共用部を清掃している業者さん、マンションの共用部を清掃している業者さんのイメージに変わるでしょうか。
または店舗の床をポリッシャーと言われる機械で洗浄している業者さんのイメージでしょうか。

一般の方がイメージしやすいのはその辺でしょうが、実はハウスクリーニングの市場はもっともっと別のところにも大きな市場があったりします。

大きく大別すると下記の市場がありますのでご紹介します。
この大きく分けて4つの市場で、多少の複合は有りますが、清掃業者は棲み分けされていると言えます。


ビルメンテナンス業

実は清掃サービス業界では、このビルメンテナンスに伴う清掃の市場が一番大きいと言えます。
(数字の裏付けはありませんが間違いありません(-_-;))

ダスキンさんを例に挙げると、
一般の方がイメージされるダスキンさんのイメージは、一般宅に訪問して…の「いわゆるハウスクリーニング」でしょう。そのダスキンさんも実は内情はビルメンテナンスの一環の清掃サービスが主業で、いわゆる一般宅に訪問して行ういわゆるハウスクリーニングの売上規模はごく一部です。
むしろダスキンさんのメインのお客様は法人様で商業ビルやマンションの管理会社様や店舗経営者様で、玄関(エントランス・エレベーター)マットのリースや清掃器具(モップ等)のリース、定期的なビルやテナント・店舗の清掃といった「清掃による定期メンテナンス」の市場をメインの売上顧客としています。

このビルメンテナンスにおける清掃サービスの市場のすそ野は広く、それに携わる人員の数も膨大な雇用を担っています。
例えば駅構内で常にちり取りとホウキを持って清掃員の制服を来て歩いている人がいますね。大きな駅であれば一人や二人ではありませんよね。駅だけではなくショッピングモールのような大きな商業施設・商業ビルや空港、大学の構内にもいますよね。
(もちろんそういったスタッフさんが正社員かどうか、職人と言えるかどうかは別にして)
またこれもイメージしやすいかもしれませんが、ビルの窓ガラスを屋上からぶら下がって窓掃除をする職人さんも、ビルメンテナンスの仕事です。

で、この仕事はどこが発注を出しているかと言うと、そのビル・施設の管理会社さんです。大きなビルや施設は、その設備や美観維持を請け負う専門の管理会社に委託するか、自ら管理する会社を作っています。そこが「清掃」に関わる仕事の発注を「清掃会社」に出しています。

想像するだけでも物凄い市場です。そういった案件に関わる清掃会社さんは自社ビルも持っていたり、社員数も大きなところはパート・アルバイトも含めて数千人という会社もざらです。地方の清掃会社さんでもスタッフ数が数百人規模だったりします。
こういった仕事はさらに、下請けの下請けの下請け…といった形で小さな清掃会社にも仕事が回ってきたりしますので、もちろん数人でやっているビルメンテナンスを主業とした清掃会社さんもいます。


原状回復に伴う清掃業

「現状回復」という言葉は一般の方は聞き慣れないかもしれません。原状回復とは、賃貸マンション・アパートやテナントで、入居者が契約満了等で退去した後に「元通りにする」「次の入居者が入れる状態にする」ことを現状回復工事と言います。

入居者が退去した賃貸の部屋は当然、汚れていますし、場合によっては損傷してしまっていたり、給湯や水回りの設備に寿命が来てしまっている箇所もあります。
掃除をして退去される方もいますが、一般の方がする掃除では次の入居者が入れるレベルにはなりませんのでプロの清掃業者(これがハウスクリーニング業者ですね)を入れます。
中には壁紙(クロス)や床を張り替えたり、古くなり劣化が激しくなった洗面台やキッチンといった水回りを入れ替える工事(これはリフォーム屋さんの仕事ですね)も原状回復工事として行う場合もあります。いずれにせよ最後は「プロの清掃」が必ず入ります。

実は、ハウスクリーニング業者のほとんどは、この原状回復に伴う清掃(通称「洗い」)をメインの収入源としているのが実情なのです。この業界の人はこういったハウスクリーニング業者さんを「洗い屋さん」と呼んだりします(ハウスクリーニング屋さんとはまず言われません)。

これまた、マンション等の賃貸物件を専門とした「不動産管理会社」さんがいて、ここが原状回復の発注を出します。この不動産管理会社さんが直接「洗い屋」さんに発注を出す場合もありますし、工事を要するケースも多いので「リフォーム屋」さんに発注を出して、「リフォーム屋」さんから「洗い屋」さんに発注が行く場合もあり、ケースバイケースです。
数は多くありませんが、マンションオーナーさんが管理会社さんを介さず、直接すべての原状回復工事の手配を自らされているケースもあります。さらに中には自ら内装や清掃もやられるツワモノの大家さんもいます(-_-;)

この市場もこれまた大きく、不動産仲介業者さんが扱う賃貸物件の数の多さを想像してもらえればわかるかもしれません。不動産仲介業者さんがテレビCMを打つくらいの賃貸物件の出入りがあるわけですから、その数だけ「洗い」の仕事があるわけです。あの物件情報の数だけ、その部屋は全てと言っていいくらい「洗い屋」さんが関わっています。
特に3月にかけての人が引越し等で移動する時期には物凄い数の退去→現状回復工事が行われます。「洗い」の業界では3~4月はお祭りみたいな繁忙時期であり、阿鼻叫喚(笑)です。この繁忙期が終わると職員さんは廃人みたいになってます(笑)

ただこの仕事はまず人の目には付きませんので、一般の方からすると「へ~清掃業界にはそんな市場があったんだ~」という感覚かもしれません。
一見するとサービス業として華やか(?)に感じるかもしれないハウスクリーニングという仕事も、裏側はこういった人の目に付かない「ハウスクリーニング≒洗い」という仕事を収入源として成り立っているという現実があります。


新築・リフォーム美装業

いきなり余談ですが、清掃サービスの業界には「美装屋」さんと呼ばれる職業があります。
ハウスクリーニングというサービスが日本の職業・職種の何に当たるかというと諸説ありますが「美装」であるとも言われています。なので「ハウスクリーニング≒美装」と言う場合もあり、会社名や屋号でも「〇〇美装(株)」といった業者さんも多くあります。

余談は続きますが、そもそも美装屋さんの起源は、古くは神社寺社仏閣の建物の美観回復やメンテナンスを生業としていた職業の方々を美装屋と言っていたそうです。そういった職業の方々が時代とともに、家を建てた際の引き渡し前の最後の清掃(=美装)を請け負ったり、古い家を再生(リフォーム)した際に美観を回復させる(=美装)といった市場を担ってきたのが新築・リフォーム美装と言われる市場です。
「いわゆるハウスクリーニング」はこういった美装屋さんのノウハウを一般家庭の住まいのメンテナンスに応用して市場も業者さん派生していったというわけです。

この市場も、新築で建てられる家の数だけ、美装をするわけですから、市場規模・ニーズは相当数あると言えます。これは戸建住宅に留まらず新築マンションでも同様です。新築のマンションなどは部屋の数だけこなさなければなりませんので、何棟もあるような大規模なマンションは相当な数になります。
この辺は大手の不動産販売会社さんや建築会社さん絡みだと、その元請さんの仕事の専属になっている美装業者さんが何社もいたりします。
またリフォームの市場でもリフォーム屋さんが対応するリフォーム案件の数だけニーズがあるわけですからこれまた市場としてはそれなりにあると言えます。

現在この市場は、新築・リフォーム美装専門の業者さんもいますが、原状回復の市場と掛け持ちで対応している清掃業者さんも多いのではないかと思います。


いわゆるハウスクリーニング業

一般の方や、清掃の業界に就労の興味を持っている方からすると、清掃サービスと言えば「いわゆるハウスクリーニング」を想像するでしょう。ご在宅の一般のお宅に訪問してキッチンや換気扇、浴室等を清掃する、サービス業としての「いわゆるハウスクリーニング」ですね(くどいですね(-_-;))。

はっきり言いますが、この一般個人の方を対象にした「いわゆるハウスクリーニング」業のみで生計を立てている企業・個人事業主はまずいません
企業としてはゼロと言ってしまってもいいのではないかと思うくらいで、せいぜいほんの一握りの個人事業主(通称「一人親方」ともいます)の方が「いわゆるハウスクリーニング」のみで商売が成り立っているのみです。

ビルメンテナンス業の項目でも触れましたが、例えばダスキンさんなども「いわゆるハウスクリーニング」の収益は全体の売上収益から見たらごく一部で、それのみで経営が成り立つかというと、とてもとても成り立たないというのが実情です。
関西圏ではまあまあ有名で、全国的な知名度はわかりませんが、時期によっては有名タレントを起用したテレビCMも打つ「おそうじ本舗」さんという会社があります。運営会社の屋号は違いますが、その屋号でのフランチャイズ展開で全国展開しています。
ここのフランチャイズオーナーさんや、そこで働いていた職人さんも知り合いに多数いますが、各店舗さんも「いわゆるハウスクリーニング」だけで経営が成り立っている店舗・オーナーさん(実質個人事業主)は聞いたことがありません。実際にはどこの店舗のオーナーさんも、ビルメンテナンスの仕事原状回復工事の仕事新築美装やリフォーム美装の仕事との複合で生計を立てているのが現状でしょう。

ごく一部で、個人事業主の方がご夫婦でやられていて、知人の紹介や口コミのみでいわゆるハウスクリーニングだけで経営を成り立たせている方も知っています。
ただ、例えば正社員を雇用して企業組織としていわゆるハウスクリーニングのみで成り立たせている業者は私の知る限りでは1社しか知りません。

それぐらい「いわゆるハウスクリーニング」の市場はニッチ(狭い・小さい)と言えます。

余談ですが、利用者側の肌感覚の話として、ハウスクリーニングで「浴室クリーニング」のメニューは大体、私の知る関西相場ですが、¥15,000~¥18,000がサービス料金の相場です。例えばこれを読んでくださっている方が男性の妻子ある方だとして、奥様が¥15,000~¥18,000をかけて「お風呂掃除を業者に頼みたい」と言い出したら、すんなり快くOKする気持ちなりますか?おそらく大半のご主人さんは「おいちょっと待てよ…」と少なからず心の中では思うはずです(笑)。
キッチン、換気扇、浴室、トイレ、洗面の水回り全体を依頼する場合は、関西相場だと¥50,000前後でしょう。「え?5万円!?そんな料金で誰が頼むの!?」と言うのが多くの一般の方の肌感覚なのではないでしょうか。
また、お知り合いの方に「ハウスクリーニングのサービスを利用したことがあるか?」と聞いてみて利用経験者がどれだけいるか。
それぐらい依頼する側からしても、心理的にも料金的にもハードルの高いサービスで市場としてはニッチ(隙間のように狭い)だと言えます。

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