お客様からお金をいただくことへの罪悪感

ハウスクリーニングで開業した当初の苦い思い出話を一つご紹介しましす。

開業当初は、頭の中は「仕事が欲しい、注文が欲しい、依頼が欲しい」とそればかり考えていました。

ありがたいことにどこでどう当社のことを知っていただいたのか、ある時「水回り全体の掃除とエアコンクリーニングを5台お願いしたいわ」と電話でご注文をいただきました。
よしやったぞ!と私は喜び勇んでお客様宅に向かいました。

しかしそこで私は、最終的にお客様からお金をいただくことに罪悪感をいただく結果になったのです。

お金が受け取れない

名ばかりの見習い期間

開業前に「見習い」という形で半年程度、ハウスクリーニングの会社で働きました。もともと独立して開業する意思があることを社長さんに伝えた上で採用してもらいましたが、正直言ってそこでの見習い時代は全くと言っていいほど何も教えてもらえませんでした。

手取り足取りは教えてもらえないだろうな、目で盗むことも必要だろうな、とある程度は思っていましたが、ここまで何も教えてもらえないものか?と驚愕しました。
質問してもはぐらかされる、目で盗もうと社長の作業しているところを除いていると「見てないであっちで作業しろ」と見させてもくれない、仕方無いので本当に盗むように影から見つからないように作業の仕方を見たり、道具や洗剤の写真を撮ったりしてメーカーや成分、特徴や使い方を後で調べたりしました。

後で知ったことですが、この社長は雇った人がどんどん喧嘩別れして独立していき、さらには商売敵となってお客を獲って獲られてをした過去現在があるらしく、下を育てる気は一切無い、体のいいアシスタントしか求めていなかったのです。

私も、もう教わることも、目で見て覚えることも無いなと見切りをつけて独立することにしました。

独立後に知り合った個人の同業者の話を聞く機会があり、聞いてみると、皆似たり寄ったりで、見習いではろくに技術は習得できずに結局は独学で覚えていったということでした。

私も「な~んだ、皆結構そんな感じで独立に踏み切っているんだな~」ぐらいに思っていました。

甘い、今思い出しても寒気がするくらい甘い見通し、実力での独立開業でした。

ハウスクリーニングを甘く見ていた自分に気づく

そんな状態で独立に踏み切った私でも、ありがたいことに仕事の依頼が舞い込んできました。

その結果私は、ろくな経験を積まないまま、いっぱしのハウスクリーニング業者として軽々に仕事を受けてしまったことを激しく後悔することになります

大体の作業の仕方は見てきていたし、やり方もわかっている、自分の家でも試したりもした、だから出来るだろう、そう思っていましたが、事実上は「ぶっつけ本番」です。

本当に今から思い返すと、その時のお客様には申し訳ない気持ちで一杯です。自分自身でも当時の私に「ようそんな実力で仕事を受けたな⁉」と激しいツッコミを入れたくなります。

結果は惨憺たるものでした。

あっという間に過ぎていく時間…

ペース配分というよりも、一つ一つの作業がどれぐらい時間を要するかがわからないので段取りも何もありません。時間はあっという間に過ぎていくのにやらなければならないことは全く片付いていきません。
お客様から「お昼休憩は取らないのかい?」「何時ごろ終わりそうだい?」と聞かれても(そもそもお客様に聞かれる前に、本来はこちらからタイムスケジュールを事前に説明しておかなければならないこと)答えられない、答えた通りに全く進んでいかない。

気遣う立場が気を遣われてしまう…

「トイレ、使ってもいいんかな?子供が我慢してたんだが漏れそうらしくて…」
と話しかけられて、ハッとしました。
「これからトイレの掃除に入りますがお使いになりますか?」の声がけもせず、焦りのまま黙って始めていました。また作業が終わっているのに「トイレ掃除、終わっているので使っていただいて結構ですよ」の声がけもしなかったため、お客様のご家族は「まだトイレ使えないのかな…」とやきもきと気を遣わせてしまっていたのでした。

16時、17時、18時…終わらない…。さらにはキッチンの清掃を後回しにしてしまったことで、お客様が夕食の準備が出来ない!!
人の良いお客様で「キッチンの掃除、終わらなそうだから出前をとるから気にせんでええよ」と…。

気を遣うのはこちらの仕事なのに、もう情けない気持ちでいっぱいです。

落としきれない汚れ…

時間に追われる、焦る、さらには落とせそうで落とせない汚れ、焦りは倍々ゲームで増幅していきます。

無理やり一通りの作業範囲を終わらせて、改めて施工した範囲を見直してみると、その場その場ではやり切ったつもりが、あとから見ると「嘘だろ?」というくらい残った汚れが目につきます。

手直しを始めるとまた時間だけが過ぎていき、ついにはお客様は夕食も食べ終わってしまいました。
自分でもまだまだやり切れていない気持ちはありましたが「タイムアップ」でした。

お金をいただく罪悪感に苛まれる


「お、終わりました…大変お待たせしました…」

お客様
「長い間、お疲れさまでしたね~」

裏表のないお客様の気遣いの言葉がお客様に対する申し訳ない気持ちに拍車をかけます。


「ご確認を…」

お客様
「いやいや一生懸命やっていただきましたから、時間も時間ですし、大丈夫ですよ」

内心では自分でも仕上がりに満足しているわけではありませんでした。掃除の仕上がりを一通り確認してもらわなければなりませんが、おっしゃるように時間があまりにも遅くなり、これ以上お付き合いしていただける状況でもありませんでした。奥の部屋では子供さんがパジャマに着替えて寝る準備を始めているのが見えました。とにかくタイムオーバー…。


「そ、それではご集金を…」

と玄関口で小声で伝えながら、自分でも「え?お金取るの?取れるのこれで?」と自問自答しました。
情けない話、開業間もなく仕事はほとんど無く収入もない時期でしたのでお金も欲しい…。でもこれじゃあ…と葛藤しました。

お客様
「はい、○○○○円でしたね、ご苦労様でした」

葛藤している間にお客様からお金を差し出されるまま、私は手を伸ばして受け取ってしまいました。

お客様
「まだ始められて間もないんですか?これから頑張ってくださいね。今日はお疲れ様でした。」

とおっしゃって、お客様は玄関の扉を閉じられました。

暗くなった玄関の外でお金を握りしめたまま私はしばらく立ちすくみました。

お金をお返しすべきか…

日を改めて再度清掃させてもらうよう提案すべきか…

逡巡しましたが、頭の整理がつかないまま、再度インターホンを鳴らすことが迷惑をかける気持ちもありましたが、なによりその勇気も無く、立ち去ることしかできませんでした。

その時の私の心の中は、こんなサービスでお金をもらってしまったことに対する罪悪感でいっぱいでした。
車に戻ってもしばらくエンジンをかけることが出来ませんでした。暗い車中で一人グルグルと思いを巡らせていました。

ハウスクリーニングという仕事もそうですが、職人としてお金をいただくことがどういうことなのかを理解できていなかったこと。見習い先で「教えてもらえなかった」ことをどこか言い訳にしている自分の甘さに腹が立ち、情けなく、それまでのお客様にお詫びしたい気持ちでした。

これをきっかけにゼロから修行のし直しを自分に課したわけですが、私にとってこのエピソードは、創業当時の本当に忘れられない、忘れてはならない苦い思い出の一つでした。


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