新人に技術を教え込むことの前に重要なこと
ハウスクリーニング業に限らず、建築業界、内装リフォーム、設備関連でも、人が作業・サービスをする労働集約型産業で人材育成ほど重要なものはないでしょう。
特に大企業であればまだしも、中小・零細・一人親方の会社・事業主にとっては、人材を雇用するかどうかの判断も死活問題ですし、思い切って雇用した指導対象の人材が戦力となるかどうかも死活問題とも言えます。
資金力によほどの余裕がない限り、雇ったからには即戦力、一日でも早く戦力となるよう徹底した指導をしなければならない、そう考えてしまいます。
人材を雇うことのリスクを超えて
中小・零細企業や一人親方にとって、人を採用することそのものがリスクだったりします。
採用して仕事が減ったら、確保できなかったら…。即戦力ならまだしも、未経験者を一から育てることを思うと戦力化するまでにそれなりの期間を要するため出費が先行します。
職人の世界は、もともと離職率の高い業界ですので、離職されることそのものもリスクです。
なので新人を採用し、育成するという決断は大きな経営決断です。
そういった思惑を経て採用した人材ですから、指導に熱が入るのもよくわかります。
「おいおい、すぐ辞めてくれるなよ」
「早く覚えてくれよ」
「一日も早く一人前にしてやらねば!」
と。
しかしそれは、新人にとって待っていたのは「駄目だし」の嵐のような指導でした。
空回りの指導、雇っては辞めていくの繰り返しの原因
一大決心である人材の採用を経て入社した新人を指導し始めると、空回り、かみ合わない、恥ずかしながら当社では、雇っては辞めていくの負のサイクルでした。
当ブログの下記でご紹介した内容を参照していただければと思いますが、
人材が育つ前に辞めていってしまう理由を、甘えがあった、やる気が無い、根気が無い、向上心が無い、打たれ弱い、等々と、辞めていった相手にばかり原因があると思っていました。
またそこには、
「一日も早く戦力に仕立て上げないと会社の利益が確保できない」
「指導側に余裕が無く、現場で新人が足手まといに感じてしまう」
「早く戦力になってもらって指導側の負担を軽減したい」
「どうせまたすぐ辞めてしまうかもしれない人間に時間を割きたくない」
といった会社側・先輩上司の焦り・疑心・怠慢さ・傲慢さもありました。
しかし、新人の立場に立ってみたらどうでしょう?
「どうせこの子は、長続きしないかもしれない」
「本気で何かをやってきたことが無い、向上心も無いんだろう」
「今までもそうやって甘えて生きてきたに違いない」
「なかなか覚えないのはやる気がないのだろう」
「使えないやつだな…」
会社の社長や上司、先輩社員からそのような目で見られていると感じてしまったら、本人はどうでしょう?
悔しくて悔しくて仕方無い、
自分が情けなくて仕方が無い、
自分は必要とされていない、
と感じてしまうのではないでしょうか?
もちろん中には悔しさをバネにして奮起する人もいるかもしれません。
特に「いつかこの世界で自分も独立してやろう!」という高い志を持った人ならそうかもしれませんが、それは反骨心であって、ある意味で早期退職(独立)の原動力となり、結局定着してくれないことになります。またその人材が独立後に良好な関係を継続できるかというと難しいのではないでしょうか。
独立する気など無く、自分が手に職をつけながら「長く」働ける職場を求めて入ってきた人材にとっては、会社や上司・先輩社員からそんな目で見られる日々は苦痛以外の何物でもないでしょう。
そうです、当社・私の最大の失敗・反省は、大きな決断をして、面接を経て「この人なら」と自分で採用しておきながら、人材を「この子は大丈夫かな?きっとまた長続きしないのかな…、向上心はあんまり無いのかもな…」と初めから疑いの目で接していたことだったのです。
私も指導役の先輩社員にも「どうだろうな~、あの子は長続きするかな~?またすぐ辞めちゃうかな~?」などと平気で聞いていました。
そして、そういった私の姿勢・態度・言動が、指導役に当たる先輩社員にも伝播して、先輩社員も同じように新人に対して疑いを持ちながらの指導になってしまっていたのです。
疑いの目で接していると、ちょっとしたことが「やる気の無さの表れだ」「工夫する気が無い」「気が利かない」「甘えた姿勢」に映ってしまい、指摘・駄目だしの嵐、小姑のような指導になってしまっていました。
指導の前に相手を承認することの大切さ
そのことに気づいた時、私は本当に恥ずかしくなりました。過去に退社していった社員一人一人に頭を下げてお詫びしたい気持ちになりました。
しかし前を向いていくしかありません。今後採用する人材については以下のことを、自分にも先輩社員にも決め事として新人社員と接するように共有しました。
- この子は絶対に出来る!と信じること
- その子のやる気、向上心を認めてあげること
- 絶対に疑わないこと
- 技術や質の前に、同じ会社の一員として認め、尊重すること
- この仕事の楽しさ、やりがいを全力で伝えていくこと
- 仕事と会社を楽しい、自分の居場所だと思ってもらうこと
(このあたりはまた別の記事で深堀りしたものを掲載しますが)
そもそも、面接の段階で真面目そうで、人柄もよく、一生懸命やってくれそうだと思って採用しているわけです。自分で採用しておいて疑いの目で接するならそもそも採用するなという話です。
どんなに技術を叩きこんだとしても、この仕事がつまらない、この会社・社員が好きになれない、居心地が悪い、自分が認めてもらえていない、と新人が感じてしまっていては、技術は習得出来たけど面白くない、辞めたいとなってしまいます。
技術を教え込む前に、同じ会社の仲間として、信じて、認めて、絶対この仕事覚えてこの会社に入ってよかったって思ってもらえるようにしような!とベテラン社員と誓い合いました。
そう思えた後、不思議なことに矢継ぎ早に応募があり、新たに4人が当社に加入して現在定着してくれました。
新たに入ってくれたスタッフには、ハウスクリーニングという仕事はもちろん、自分という存在を認めてもらっている、この会社で働くのが楽しい、居心地がいいと思ってもらいたいものです。
今はその上に仕事の質の追求があると思っています。